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「ありがとうございました。来週もお願いします。」
白井智弘はお得意様の店長へと頭を下げ自動ドアから飲食店の外へと出て行った。
真夏の外気に顔をしかめながら、すぐに携帯を取り出し会社へと電話する。
〈お電話ありがとうございますスタック広告の矢島です。〉
着信音がワンコールも鳴らないうちに電話にでたのは先輩の女性事務員さんだった。
「お疲れ様です。白井です。裕子さん今、電話大丈夫ですか。」
〈あ、白井君か。大丈夫だよ。どうしたの。〉
「先週掲載したフランス料理店のブランが来週も掲載して欲しいってことだから手配をお願いできますか。」
ブランとは先ほど出た店の名前で智弘は打ち合わせを終えたばっかりであったのだ。
〈分かった。原稿と写真はどうするの。〉
「原稿の内容、原稿サイズ、写真は前回と同じで大丈夫ですのでお願いします。」
〈了解。ではまた後でね。〉
電話が切れたことを確認し、智弘はスーツの内ポケットへ携帯をしまう。
ふと、空を見上げると雲ひとつない天気、真夏の日差しが降り注ぎ、肌からジワジワと汗がにじみ出てきた。
智弘は手帳を開きこの後の予定を確認する。手帳にはこの後の予定は何も書いていなかった。
時間を見ると16時30分。まだ会社に帰るには少し早い時間に今週の売上目標をクリアしている智弘は少しブラブラと時間を潰すことにした。
真夏の日差しの中、智弘は喫茶店を探し歩き回った。
十五分後。喫茶店は一切見つからず、ただ体力だけを消費した男が自動販売機の前にいた。
「漫画喫茶どころか喫茶店すらないなんて。」
ぶつくさと言いながら硬貨を自動販売機に入れ、コーヒーのボタンを押す。
コーヒーを取り出しすぐ近くの公園のベンチへと腰を下ろす。ベンチは丁度日陰になっており幾分か涼めそうだ。
にゃぁ。
足元から猫の鳴き声がし、智弘はベンチの下を覗き込んだ。そこにはベンチの影の中でこちらを見上げる白い猫がいた。
「お前、警戒心が無さ過ぎじゃないか。」
にゃぁ。
人間が近くまで来て逃げも、威嚇もしないとなると誰かの飼い猫か。それともよく餌を貰っているノラか。そんなことを考えながら鞄をゴソゴソと探っていた。
鞄の中から昼食用に買ったパンの残りを取り出し、白い猫の前に落とす。
「ほらよ。昼飯の残りだけどよかったらどうぞ。」
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