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今、何かあり得ない言葉を 聞いた気がする。
もしかすると聞き間違えたのかも知れない。
智弘は額に手を当ててから顔を横に振った。
「すまない。聞き間違いかもしれないのでもう一度言ってくれないか。」
少女は真剣な表情のままこちらを見つめ続けていた。
「はい。私を買ってくれませんか。」
聞き間違いではなかった。
しかし、平凡な街中でスーパーの袋を持った男にそんなセリフを言うはずがない。となると、私の何かを買って欲しいということではないか。そうだそうに違いない。
「君の持っている何かを俺に売ろうとしているってことかな。」
「違います。私の体のことです。一晩買って下さい。お願いします。」
先ほどとは違いどこか必死さが伝わる声に智弘は驚いた。
「それをどういう意味で言っているかわかっているのか。」
「はい。」
消え入りそうな小さな声で少女は俯きながら答えた。
どういった意味かもわかっているのであろう少女の体は小刻みに震えていた。
「ふぅ。どうすればいいものか。」
智弘は悩んでいた。もちろん少女を買うつもりなんて毛頭無い。確かに十二分以上に魅力的な少女なのだが震えているということは本意ではないのだろう。しかし、ここでこの少女を買わなかったらこのまま次に通る男を待つだろう。
「分かった。着いて来い。」
その一言に少女は体をビクッとさせ驚きと恐怖の入り混じったような表情をした。
「はい。お願いします。」
まるでこの世が終わってしまうかのような声を発し少女は智弘の後を夜道の中着いて行った。
一定の距離で無言のまま歩くこと2分ほどで二人は智弘が住むマンションに到着した。
心の中でマンションに着くまでの間に少女がどこかに逃げていかないかと祈っていたが、その願いは叶わなかった。
無言のままオートロックを開場し、マンションの中に入っていく。
エレベーターを降り、304号室白井と書いてある部屋の扉を開け智弘は部屋の中に入る。その後を追うかのように少女は玄関の中へと入っていく。
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