1・武家殺し

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水無月(六月)。梅雨の始まりを感じさせる生ぬるい風が、奥州最南端の水石藩を駆け抜けていく。 浜の町は天候がぐずつきやすいのか、六月に入ってからというもの、空は毎日のように暗かった。 「臭いな……もうすぐ蛆(うじ)がわくぞ。遺体を片付けちまえ」 村山慎之助鷹利は手ぬぐいで鼻を押さえながら、部下の町方同心にそう命じた。 この日の未明(みめい・深夜)、御小姓組の組頭を務める小菅(こすげ)という役人が何者かに殺害された。
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