292人が本棚に入れています
本棚に追加
水無月(六月)。梅雨の始まりを感じさせる生ぬるい風が、奥州最南端の水石藩を駆け抜けていく。
浜の町は天候がぐずつきやすいのか、六月に入ってからというもの、空は毎日のように暗かった。
「臭いな……もうすぐ蛆(うじ)がわくぞ。遺体を片付けちまえ」
村山慎之助鷹利は手ぬぐいで鼻を押さえながら、部下の町方同心にそう命じた。
この日の未明(みめい・深夜)、御小姓組の組頭を務める小菅(こすげ)という役人が何者かに殺害された。
最初のコメントを投稿しよう!