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町方奉行所の定(じょう)廻りに務める慎之助鷹利は、いい加減うんざりだった。
「先月からこれで、武家殺しは一体何件目だ……。このまま下手人を捕まえられんと、来月には私もお前も首が飛ぶぞ」
自分のいら立ちを部下にぶつけたところで何の解決にもならないのだが、それでも彼はその焦りを隠さなかった。
桜の散った五月の初旬から数えて、この武家殺しは六件目になる。
殺害されたのは、どれもそれなりの身分を持つ武士ばかりだ。
最初の二件ばかりは、殺害のあと屋敷が荒され、物盗りの犯行と思われた。
しかし、その後の被害者からは屋敷が荒されるという形跡もなく、ただ胸を刺されて殺されていたのである。
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