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水石藩の城下町。その商家の建ち並ぶ通りを御倉(みくら)町という。
並ぶ店は主に反物屋や筆具屋、古書店に金物屋と続く。
そこからさらに奥へ進むと、酒問屋に油商と様々な商家がずらりと軒(のき)を連ねている。
そんな商家通りに、一軒の風変りな商売を営む店があった。
屋号(やごう・店名)は『市中死番屋』
ずいぶんと重苦しい名だが、それはこの店の業務に由来していた。
「寅之助、寅之助はどこだ」
そう言いながら足速に屋敷を歩き回るのは、この店の番頭を務める棟方才蔵という男だった。
左手に水桶を持ち、右手には大層よごれた手ぬぐいを握っている。
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