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あの野郎、また厠(かわや・便所)の掃除を怠(おこた)りやがって……。
鬼のように目を吊り上げ、棟方才蔵はようやくその寅之助を見つけた。
庭先の縁側で背中を丸め、何やらせっせと手を動かしている。
「何やってる、お前」
寅之助という男は、棟方の声にびくっと肩を震わせると、恐る恐る振り返った。
「やあ……」
「やあ、じゃない。何をしているのかと訊いているんだ」
寅之助は小刀と竹ベラのような物を握っていた。
「はは、内職……。ガキのいる家に独楽(こま)や竹とんぼを造って持っていくんだ。や、これが結構な小遣い稼ぎになるんだよ」
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