出会いはため息の後に

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出会いはため息の後に

「寒っ! 三月だってのに、まだまだ春は遠いな―」  思わずでた独り言。美里は首に巻いたマフラーを、鼻が隠れるまで引っぱり上げ、寒空の下を両腕を擦りながら歩いている。目的は、公園の自販機。インスタントコーヒーを切らしてしまった。気分転換に、散歩でもしながら缶コーヒーを飲むのも悪くない。  ―新しい出会いがあるかもしれないし―なんて。本心はそんな気持ちも期待もさらさらない。  ―年齢? 適齢期?―そんな事で焦るのも面倒。とにかく今は、自由気ままに一人を満喫したい。こんな心境を、世間では“やけくそ”と呼ぶのだろう。一年と半年付き合った彼から、三ヶ月前にサヨナラを宣告された三十路女。  ―きっとこれが最後の恋―出会った時のインスピレーションは、とんだ勘違いで、思い描いていた未来も儚く散ってしまった。  “まだまだ春は遠い”そんな女の呟きは、やけにリアルだ。いや、三十歳の大台に乗るまで、まだ数ヶ月ある。美里はそう思い直したものの、深いため息を吐き出した。虚しいだけの言い訳が、一体何の慰めになるのか。
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