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洋子からのストーカー並の着信履歴に気付いたのは、美里が飲食店のパートを終えた、翌日の午後5時過ぎだった。
「お疲れ様でした。お先に失礼します」
パート先のおばさま達に挨拶を済ませ、携帯片手に従業員出入り口から外へ出たところで、美里は小さくため息を漏らした。
「ったく。留守電に用件も入れずに」
そうぼやきながら、リダイヤルボタンを押そうとしたところで、美里の携帯の着信音が鳴った。最近ダウンロードしたばかりの着歌。ディスプレイが、洋子からの10回目の着信を告げている。
「はいはい」
そう呟いた途端、背後から大きな声がした。
「その着歌! おー罠に掛かったね。ハマッタね! East Topに!!」
「洋子! もうビックリさせないでよ!」
ギョッとして振り返った美里の前に、満面の笑みを浮かべた洋子が居た。
「いや、これはその、前の着歌に飽きたから何となく……」
しまったと言わんばかりに、思わず言い訳っぽいセリフを口にした美里。自分でも何故こんなに焦っているのか分からないまま、続けた。
「てか、これじゃあんた本当にストーカーじゃん!」
「誤魔化さなくていいのだよ、美里くん。そっか~、気に入ってくれたんだ。じゃ、話は早い」
不敵な笑みを浮かべる洋子に、美里は嫌な予感がした。
「何?」
訝しげに訊ねる美里に、洋子が答えの代わりに差し出したのは1枚の紙切れ。これ~。と言って、ヒラヒラさせながら、また笑みを浮かべる洋子。
「だから何これ?」
美里がそう聞くと、今度は辺りを警戒するようにキョロキョロした洋子が、耳打ちした。それを聞いた美里は、即座に言い放った。
「は!? 何言ってんの! 無理無理、その日はフルタイムでパートだし!」
「まだ日にち言ってませんけども?」
洋子にそう言い返され、ますます焦る美里。
「いや、だから、その……」
最早、二の句が継げない美里を追い込むように、洋子が続けた。
「じゃ、そういう事だから。また連絡するよ。ット マンナヨ♪」
そう言い残し、軽やかな足取りで去っていく親友の後姿に、真っ白な羽と、真っ黒な尻尾が生えているように見えた。まるで天使なのか、悪魔なのか、見当がつかない。
無理よ、ムリムリ! とにかくダメなのよ!
「名刺交換会? East Topと? ムリムリ、無理~!」
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