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そうとわかれば退治するまでだ。おれはそいつを捕まえようと、鏡をよーくみながら、頭上のそいつがいるところを手でつかもうとしたんだ。ところが、何度やってもうまくいかねえ。つかんだかと思っても、おれの手はそいつの体をするりと通り抜けちまう。
「ちきしょう、まるで幽霊みたいなやろうだ。」
それからの数日間、おれは頭の痛みをこらえながら、どうにかしてそいつを退治してやろうと躍起になった。
網で捕えようとしたがうまくいかない。
ろうそくの火であぶってみても、熱がっている様子すらない。
またあるときは、包丁でぶっ刺してみたんだが、やはりするりと通り抜けちまって手応えはない。
その間もそいつは相変わらず、きききと気味の悪い笑い声をあげながら頭をがんがんと叩き続け、その度におれはぐっと痛みをこらえた。
旦那さまに相談しても、茂吉がまた馬鹿なことを言い出したと鼻で笑われる始末。どうやら、こいつの姿はおれにしか見えていないようだ。
そうこうしているうちに、痛みはどんどん激しくなってきたんだ。
「こりゃいかん、頭が痛くて痛くてたまらねえ。なんでおれだけがこんな目にあわねえといけねんだ。腹が立ってしょうがねえ。」
日に日にましていく痛みに、おれはだんだん堪えられなくなってきた。
いらいらして旦那さまにあたり散らしてみたり、部屋中のものをぶっ壊したりしてみたりしても、そんなことで痛みがおさまるわけがねえ。ああ、こんなことならいっそ首でも吊ってくたばっちまった方がまだましってやつだ。
「だいたい、この鏡のせいでおかしくなったんだ。あいつが見えるようになってから今まで、ひとつの良いこともありゃしねえ。いっそのことこの鏡もぶっ壊してやらあ。」
おれはこぶしをぐっと握りしめ、鏡をぶん殴ろうと振り下ろした。
そのとき、不思議なことがおこった。こぶしが鏡の中にすうっと入っていっちまったんだ。
「ありゃりゃ!こりゃあ一体全体どういうわけだ?むむ、もしかして…。」
突っ込んだ手をさらに奥に伸ばして鏡の中のおれの頭の上にいるそいつのところに持っていき、ぐっと手をにぎってみると、やっとこさそいつをつかまえることができた。
そしてその瞬間、朝も夜もずっと続いていた痛みがようやくおさまったんだ。
「やや、なるほど。そういうことだったのか。どおりで何をやっても手応えが無かったわけだ。」
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