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おれはそいつをつかんだ手を鏡の中から引っ張り出した。
こいつさえ退治してしまえば、長いこと付き合わされたこの激しい痛みから解放されるに違いねえ。
「そうとわかれば鬼退治だ。殴りつけるか、火であぶるか、それとも包丁でぶっ刺してやろうか。
しかしこいつ一体どんな汚え面をしてやがるんだ?冥土の土産にちょっくらおがんでやらあ。」
おれは握った手を顔の近くに持っていき、そいつの面をじっと覗き込んだ。
その顔を見て、おれはびっくり仰天したんだ。
「こいつ、おれじゃねえか。」
いままでおれの頭の上にいたこいつは、おれ自身だったってわけだ。
あまりに驚いたおれは、ついつい掴んでいた手を緩めちまった。
その隙にそいつはおれの手をするりと抜け、ぴょんぴょん跳びはねながら鏡の中に戻って行ったかと思うと、またおれの頭の上でガンガンやりだした。
と同時に、また例の痛みが戻ってきた。
「なんでぇ、痛みのもとは、このおれだったのかぁ…。」
不思議なもんだ。痛みの感覚こそあるが、さっきまであれほど辛く苦しかった痛みが、とたんにたいして気にならなくなったんだ。
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