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私には優しいお母さんがいる。そして母の日に林檎の髪止めをあげようとしたことがある。
「え?いらない?ガーン」
「ごめんね未来。他にも髪飾りやヘアゴム一杯持ってるしいらないのよ」
そういって髪止めを拒否。正直がっかりしたがしぶしぶ自分のものにした。
林檎は本当にいかにも林檎という形で、小さな葉っぱが付いている。
「まあ、しかたがないわね」
髪に付ける。鞄を持って762中学校へ向かった。珍しく遅刻はしなかった。いつもはギリギリなのに。
教室に入ると最上静香がいた。
「おはようございます」
そう挨拶された。こちらも手を上げて合図した。
「何読んでるの?」
「美味しいうどんの店探してるのよ」
「へえ!地方誌じゃん」
「夜こっそり食べに生きたくて」
表紙は職人が懸命に麺を打っている写真。額に汗を浮かべ真剣そうだ。
「あ、その髪止め」
「どうかした?」
「すごく可愛いらしわね」
「実は母の日にあげようと思ってたんだけど。向こうはいらないって言ったから自分のに…」
「似合ってる。未来らしい」
そう言われるとすごく嬉しくなる。頬が少し赤くなった。
「ねえ、この髪止め欲しくない?」
「未来のものだよ」
「そう言わずに」
静香の髪に付けるといい感じになった。黒髪に映える林檎。
「あれ?においしない」
「ちゃんとお風呂入ってるよ。臭いかな」
「違うこれだよ」
髪止めを指した。
「くんくん…うわ、凄い本当だ」
林檎から香りがする。さっき付けていた時はそんなことなかったのに。
「やっぱり静香ちゃんにあげるよ。林檎はきっとぴったりの持ち主を見つけて喜んでいるのよ」
それ以来髪止めは最上静香のものになった。
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