Prologue

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アメリカ合衆国内陸部某州の辺境に位置する都市、トライセルシティ。時刻は未明。 今から数年程前に誕生したばかりのこの街は、環境重視綺麗さ重視という、一風変わった先進的都市である。真っ白なビル群が建ち並び、中央には街のシンボルであり市庁舎でもあるタワーがそびえ立っている。 そんな中心区画、通称「中央区」から南西に数十㎞、俗に「一般区」と呼ばれる一番外側の区画の更に外側の一部。 かつては工業都市として栄えていたが、トライセルシティの誕生にともない「必要性がない」とすっぱり切り捨てられ、今では廃ビルや廃工場が建ち並ぶだけとなった場所。 そんな廃ビル群の路地をとてつもないスピードで駆け巡る一つの影があった。影が走ると、裏路地に散乱している紙片やら何やらが巻き上がり、先程から降り始めたらしい雨に打ち落とされる。どうやら影は、どこに行こうという目標も何もないらしい。時々同じ所を堂々巡りして、やがて別の場所へとチーターを遥かに上回るであろうスピードで去っていく。 やがて、次の路地の角を曲がろうかという時に足を滑らせたらしい、影はその体を薄汚い壁に打ちつけてしまう。 その瞬間、影の輪郭がぼんやりと浮かび上がる。
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