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登り始めてから三十分は経っただろうか。
足もクタクタになってきたところで俺は問いかけた。
「なぁ、まだなのか?」
「もう、着くよ。」
さっきとは相反した落ち着いた口調で喋るそいつに違和感を感じつつも、その答えに安堵する。
これであと半分とか言われたら溜まったものではないからな。
そして、そいつの言った通りすぐに林から抜け出せることが出来た。
抜けた先にあったのは広場。
それなりに広い広場だった。
突然平面な地面に足を踏み入れた事でバランスが崩れそうになるが、なんとか持ちこたえる。
「ここがお前の言ってた心霊スポットか?」
広場を光の狭い懐中電灯で調べながら俺は尋ねた。
「違うよ。棲家はもっと上がった建物の中にあるんだ。ここは言わば遊び場だよ。」
暗くてどんな顔をしているのか全く分からないが、何故だかそいつがとても不気味に思えた。
大体、何でこんなに詳しいんだ?
初めて来たんじゃないのか?
募る疑問を胸に抱き、行き場のない懐中電灯の光は広場を放浪する。
その光が中央付近に差し掛かった時だ。
何気無く光を当てた場所で大きい影のような塊が見えたのだ。
不審に思い、通り過ぎた光をその場所へと戻して照らす。
目を凝らすこと数秒。
理解した時、俺は目を限界まで見開いて驚いた。
その影の塊は、倒れて体を丸くしている人間だったのだ。
「お、おい!あれ!」
半ば悲鳴のように声が裏返ったが、気にせずあいつに伝えようと指をさして振り返る。
「……え?」
暗闇で分かりにくいが、俺が正しければ、眼を向けたこの方角にあいつはいない。
いや、暗くったって人間がそこにいるのなら分かるはずだ。
あいつはその場からいなくなっていた。
それが理解出来た途端、全身に鳥肌が立った。
心霊スポットに一人。
暗闇に一人。
一気に寒気や悪寒が襲ってきた。
「ふっざけんな!逃げやがった!あいつ、何で!!マジでざけんな!!」
支離滅裂に恐怖を緩和させようと怒りを露わにさせるが、この静寂に包まれた空間の所為で、より一掃不気味さが漂う。
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