* 玉の輿の「た」すら見えない頃

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そんなことを話している最中、東條さんはずっと「そうかそうか」って何度も頷いてた。 いつの間にか椅子をコチラに向けて座り直してる。 相変わらず椅子は斜めで、座り心地悪そうだけど。 「春芽さんはおばあさん思いだね。」 私が一通り話し終った後、東條さんは優しい声で言った。 「そうですか?親がいないから必然的にそうなっただけですよ?」 「なるほど。もっともと言えばもっともだ。」 手を休めることなく顔だけ向けて言ったら、東條さんは心から納得したように何度も頷いてた。 初日は書斎だけで手一杯だった。 部屋の中が散らかるのはまぁ分かるとして、どうして玄関や障子までがこんなにボロボロなのか尋ねたら、実は東條さんはココに越して来てから一度も触れていないそう。 ということは、以前の住人が住んでいた時からあの状態…。 本来なら、そんなままで不動産屋が次の人に貸すなんてアリエナイと思うんだけど、東條さんはそこら辺は気にしなかったみたい。 『すぐに住みたいし、自分で直すから』って言ったそうな。 …『自分で』。…左様ですか。
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