* 玉の輿の「た」すら見えない頃

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「あのー。」 もう一度声をかけた時、奥からバサバサッと何かが落ちる音がして、その後、何かがガターンと倒れる音がした。 …わー、壊れモノじゃないといいけどなー。 一体何の後片付けの仕事が増えたんだろうと思いながら、ハトのように首をヒョコッと伸ばして奥を伺った。 すると奥から「エホン」っていう咳払いと共に、随分小柄なおじいちゃんが歩いてきた。 ヨレヨレの背広と、シワのついたスラックス。 ネクタイはしてなくて、ベージュのポロシャツの襟が折れ曲がってる。 研究職…っていう割には、エライ小汚い感じがする。 …イヤ、研究職だからこそこんななのか? 私は心の疑問を飲み込んで、ニコッと笑顔を作った。 「伊東派遣事務所から参りました、沢口 春芽 です。」 「…サワグチ…ハルメさん…。」 おじいちゃんは口の中で呟くようにしてから、「どーもどーも」と、愛想のよい笑みを浮かべて握手を求めてきた。 モチロン笑顔で受け止める。 …ヨシヨシ、まずは第一関門突破。 そこまで気難しくはなさそう。
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