* 玉の輿の「た」すら見えない頃

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「…くれないの 二尺のびたる 薔薇の芽の 針やわらかに 春雨の降る。」 「ハイ?」 突然和歌を詠まれて、思わず笑顔のまま固まった。 「春の芽。いい名ですな。正岡 子規 の和歌だ。」 ニコニコしたままそう言った。 「…あ、あぁ、…和歌…ですか…?」 突然何を言い出すんだろうと伺うように答えたら、おじいちゃんは1人で勝手に納得して大きく頷いた。 「春生まれですか、ウン。…実に美しい和歌です。」 「……。」 おじいちゃんの言葉の後半はもう独り言でしかない。 既に踵を返して、奥の方に歩みを進めつつある。 そして、そんなおじいちゃんの思考についていけない私。 …え?何? もしかして名前? そりゃ春生まれだけど、きっとその和歌は関係ないよ? おじいちゃんはピタリと立ち止まってコチラを振り返ると、「どうぞご遠慮なさらず」って、また愛想のよい笑みを浮かべた。 そしてアッと何かを思いついた顔になったかと思ったら、再び握手を求められた。
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