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初めて会った時は、清香が能上の指定した場所へ出向いていった。きっかけは能上から送られてきたメールだった。『沙耶』というペンネームを使っていた清香は、そこでようやく自分の本名と、その提案がどれだけすばらしいものかを語った返事を書いた。
長い旅だった。同じ国内とはいえ、生まれた町から出たことさえ数えるほどしかなかった清香にとっては苦労も多かった。しかし、得たものは大きかった。能上の顔もそこで知ったし、より深く人となりに触れることもできた。
その後、清香はさらに文通を重ねた。お互いに気兼ねなく近況を報告しあえる仲になったと感じ始めた矢先、また魅力的なメールが届いた。
『今度、沙耶さんの町で、花火大会が開かれるって書いてましたよね。その日、また会ってお話ししませんか。前は清香さんに来てもらったんだし、僕のほうから行きますよ』
なんと能上のほうから、自分の住む町に来てくれるという。しかも、花火大会が開かれる当日だ。実現すれば、きっとずっと忘れられない一日になるだろう。
さらにメールを交わし、清香は確信を深めた。これは偶然などではなく、運命と呼ばれるものに違いない。能上との出会いは、はるか昔から決まっていたことなのだ。
――今日会えば、わたしの未来が決まる。あの人はわたしの希望。長い間、心の奥で閉じたままの重い扉を、あの人ならきっと開けてくれるはず。
ゆっくりとした歩みを続ける清香は、いつしか長い土手の上で一人きりになっていた。前後を行く者は誰もいない。だが、孤独を感じることはなかった。
消えることのない兄の記憶と並んで、新たに生まれた能上との交流。電脳世界から始まった日々が未来を変えると信じ、清香は花火が照らす夜道を歩き続けた。
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