11人が本棚に入れています
本棚に追加
早くしろ……早くしろ……彼は心の中で強く念じるが、階数を示す数字が上昇する早さにはいささかの影響もおよぼさない。
そして、エレベーターが目的の階に到着し、室内に甲高いベルの音が鳴り響いて扉が開かれるが早いか、シェパードは飛び出した。
腰のホルスターから抜き取ったハンド・ブラスターを手に、バロック調の洒落た廊下を駆け抜ける。
やがて、ある一室の前にたどり着くと、息をつく間もなく鍵のかかっていないドアを勢いよく開いた。
週末の夕暮れ時にはまだ早い時間帯にもかかわらず、室内は薄暗く、静まりかえっていた。肌を刺すような緊迫した空気が辺りに漂う。
ここにきてようやく息を呑んだシェパードは、ハンド・ブラスターを両手で構えておそるおそる室内を進む。
玄関から少し進んだ先にある広々としたLDKは、建物同様にバロック調で統一された高級そうな家具の数々が優雅にたたずんでいた。
そこに荒らされた形跡はなく、綺麗に手入れがされたオーク製のテーブルが艶やかな光沢を浮かべ、食器棚のなかでは花柄のティーカップたちが楽しそうに肩をならべている。
そのような光景が、いっそう不気味に感じられた。
すると、LDKと洋間を区分けするドアの向こうでなにかが動く気配――厳密にいうと、気配ではなく小さなもの音――がした。
最初のコメントを投稿しよう!