現実と逃避

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俺の家は病院を経営していて、両親共にそこで働いている。 言わずもがな俺もその病院に勤めていて、近々両親の跡を継ぐんだっていうのは成人を迎えた頃から意識していた。 そのことに俺自身、誇りに思うし、何より自慢なことだった。 でも…… 「ほれ、謙也。挨拶しぃ」 「………忍足、謙也いいます」 「あっはっは、謙也君は礼儀正しい方やなぁ。それになかなかの男前や、私の娘にピッタリやないか!」 機嫌よく豪快に笑う目の前の恰幅のよい男性と、豪華な刺繍を誂えた着物を着てその横に静かに腰を下ろしている女性――許嫁がたった今俺の家へとやってきていた。 許嫁と言っても、この不景気な世の中だ…ただの許嫁なんかじゃない。 今後お互いの家にもたらす利益のため、所謂政略結婚のための許嫁だ。 別にそんなのは今時珍しくはないし、家のことを思うとこの許嫁との結婚はとてもいいものだ。 だけど、だけど俺には……愛してると断言出来るほどの恋人がいる。 「謙也さん…」 「ひ、かる…?」 愛しくて恋しくて、全てを捧げても構わないほど好きな俺の恋人、財前光。 その人が今目の前に居るなんてことはありえない。 見開いたままの目で周りを見渡すと、先程までいた許嫁と親、俺の父親までもがそこからいなくなっていた。 →
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