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【人間界】
深い森の中、そこには小さな赤い屋根の小さな家が一つ有るだけだった。
きーこ きーこと椅子の軋む音が家に鳴り響いていた。
其の椅子に座るは髪の白い老婆。
気品に満ちた老婆は其の音が心地よいのかただ目をつぶり椅子を穏やかに揺らした。
老婆がうとうとしていると其れは突然頭の中に響いた。
「また、しのこんな時間まで遊んでちゃ駄目じゃない!」
若い女の怒鳴るような声。老婆は驚いたのか目をキョロキョロとさせると
ゆっくりと椅子から立ち上がった。
古く軋む暗く長い廊下を歩き老婆は庭へ出た。
辺りは薄暗くもうじき太陽も森で隠れてしまう。
「しの聞いているの?
あまり暗くならないうちに帰って来なさいって何度も」
しのと呼ばれる少年はただうつむいたまま黙って聞いているだけだった。
老婆は少年の元へ歩み、其の漆黒の黒髪を優しく撫でた。
「それぐらいにしておやり、遊びたい盛りなんだから」
穏やかな声で老婆は女に言った。
「母さん……甘やかさないで、暗くなったらどうするの!」
女は辺りを見渡してからそう言ってしのを見た。
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