鳥かご庵

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ただ無心で歩いていた。 衝動的に家を出、照明具ひとつ持っていない。 真っ暗でどこが道なのかも最早解らない。 足の感触からしてちゃんとした道出はないだろう。 シンと静まりかえり、物音一つしない。真っ暗な森。 ――おい。 背後から聞こえた男の声。 誰かが着いてきた? 有り得ない。 足音は聞こえなかった。 ……………………初めからここにいた? 「おい。聞こえてるんだろ」 鮮明に聞こえる。 『死神』 子供の頃から植え付けられた思考がそう言っている。 振り返る瞬間頭の中で老婆の声が響いた。  『イクノに会ったらあの世へ……引きずり込まれるんだよ』 ―――この日を境に瀬間原 紫野を見た者はいない。
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