菜摘さんと陵汰くん。

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「それは……」 眉間にシワを寄せ、眩しそうに片目だけで私を見る。 「俺に不満があるってことを、遠回しに言ってるんじゃないよな?」 いるわね、そういう子。 別れたいって言って、男の気を引く女。 でも。 「菜摘はそういうタイプじゃないか」 陵汰は私のことを、誰よりも知っている。 私が自分をさらけ出すことの出来る人間の数少ない1人。 陵汰は、眠そうに顔をこすりながら起き上がった。 「いいよ、別れよ」 彼の目に今、私はどんな風に写っているのだろうか。 「少しは落ち込んでる?」 「そりゃね。3日でフられましたから」 寝癖の付いた髪に触れる。 あの頃と変わらない、茶色がかった優しい柔らかな色。 「でも、引き止めないのね」 「菜摘は1度決めたことは変えないだろ」 本当に彼は私をよく理解してる。 それが、こんなにも痛く感じたのは初めてだ。 「じゃ、明日からは友だ……」 言い終わる前に口を塞ぐ。 恋人としての最後のキス。 深みにはまらないよう慎重に唇を重ねた。 ゆっくりと時間をかけて陵汰を感じる。 逃げなきゃ。 頭の中で声が聞こえる。 もっと彼を欲してしまう前に逃げないと、私は壊れてしまう。
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