御柱

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「寝ると……どんどん引っ張られて」 「寝られないのか。そりゃ辛いよなあ。どこ引っ張られた?」 「魂が。早く掃討しないと……」 「寝てると魂を引っ張られるのか。だから、早くそいつをやっつけたいんだな」 六宮は上半身を起こし、こくこくと頷いた。 小暮は驚きの表情で二人を交互に見る。 「オレも、その悪いやつらをやっつけるお手伝いはできるかい?」 「神の部隊を、結成するのです。悪しき造物主を殺すための……」 「造物主ってのは、自治隊のこと?」 「あれは魂を闇に売った屍(しかばね)ですから。腐敗した頭脳です、それが命令します」 「大阪府庁のことか?」 「現人神(あらひとがみ)の名のもとに、我々は戦わねばなりません。私はその柱となります」 「"ハシラ"?」 後ろから、小暮が素っ頓狂な声を上げた。 あわてて口に手を当て、『すみません』と呟く。 「柱ですよ。なぜ分かりませんか」 わずかに、六宮の声に苛立ちが混じった。 半身を起こし小暮を見据える姿は、大きな蛇を思わせる。 「君は部屋から出なさい」 笈川が体を六宮のほうに向けたまま、横目で静かに言った。 「す……すいません、僕は」 何かを言いかけたとき、六宮の体が跳んだ。 蹴られたベッドが音を立てて後ろにずれる。 彼は大きく手を広げた。 指先が鉤爪型に強張り、猛禽類を思わせる。 その爪先が、動転したまま動けない小暮の鼻先を掠めた。 支えるもののなくなった体は、胸をがら空きにしたままリノリウムの床に向けて落下する。 とっさに笈川は自身を滑り込ませた。 「ぐ……」 細身とはいえ、成人男性を抱きとめた衝撃は強かったようだ。 笈川は膝を強打した上に横倒しになり、顔をゆがめた。 白衣のポケットに入っていた鍵束が飛び出して床を滑る。 「柱が、柱が、柱が、柱が、柱が」 六宮は素早く鍵束を掴み取った。 その表情は空虚で、何の感情も含んでいない。 彼は逆手に握った鍵の先端を、笈川めがけて何度も振り下ろした。
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