隻眼

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** カンファレンスルームとは、いわゆる会議室である。 何部屋かあるが、人目を避けるため、小さい部屋を選んだ。 クリーム色の室内の真ん中に八人掛けの白い楕円形テーブルが置かれているだけの、至ってシンプルな部屋だ。 「しかしねえ、復帰初日とはいえ歓迎が熱烈すぎじゃないかい」 そんな軽口に、小暮は返事も出来ず嗚咽している。 笈川は彼を椅子に座らせると、自分も隣の席に着いた。 「あれか、オレの左目が駄目になったんで、責任感じてんのか。ん?」 いつも患者に接しているときと同じ、優しく落ち着いた声だ。 うつむいたままの小暮に、覗き込むようにして笑いかける。 しばらくして、途切れ途切れの答えが返ってきた。 「……目……どうなっちゃうんですか……」 「まあ、光が感じられる程度にはなるだろうよ。ちなみに利き目は右だ。ラッキーだったろ」 「全然ラッキーじゃないですよお……僕のせいで失明したのに……」 再び嗚咽が激しくなった。 背中を丸め、膝の上の手はズボンを千切れんばかりに掴んでいる。 雨のように、涙がその手を打っていた。 「ばかだねえ。ありゃ、どう考えたってオレのミスだよ。君さ、研修医のくせに一丁前に、オレより責任があるなんて思い込むんじゃないよ」 「あのとき、ちゃんと先生は患者さんを守って……僕のことも……僕が、あの人を怒らせたから……」 「抑制帯を外したのはオレの指示だよ。 言い訳になるが、食事を摂ってくれないこと以外は大丈夫そうだったんだ。会話も続くし、薬も素直に飲んでたしな。搬入されてからの三日間は、易怒的なところもなかった」 易怒的とは、簡単に言うと『非常に怒りっぽい』ということだ。 中には、罵声を浴びせかけてきたりドアを叩いたりと暴力的になる患者もいる。
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