閉鎖病棟

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「君……何でここに」 小暮が、膝を抱えて座り込んでいた。 急に当てられた電灯の光がまぶしいらしく、大きな目を精一杯細めている。 「せんせい……笈川先生ですか?」 「先生ですかじゃないよ、一体ここで何してんの」 「先生を待ってたんです」 小暮はふら付きながら立ち上がった。 「今日だとは思いませんでした。けど、ここで待ってたらいつか来るだろうと思って…… 看護師の山村さんに頼んで、僕が入った後に閉鎖病棟の扉を施錠してもらったんです」 「オレが恋しいのは伝わってきたけど、結局何がしたかったんだ?」 笈川は呆れ顔だ。 ふと鉄格子の中を見ると、ベッドの中で六宮がもぞもぞと動いた。 二人の声で起きてしまったのかもしれない。 「場所を移そう。オレを捕獲できたことだし、もうここにいる必要はないんだろう?」 「はい」 戻りながら、笈川は手の中で鍵束を弄んだ。 その中から、比較的小さめの鍵を選び出す。 「折角だから、この鍵使ってみようか」 「何ですか?」 「屋上だよ。行ったことないだろ?」 屈託のない笑顔で言う。 「今日はきっと星見えるんじゃないかなあ」 小暮はまだ迷っていた。 信じたい気持ちと疑いとの狭間で葛藤する。 そんな気持ちを知ってか知らずか、笈川はいつもの柔和な顔で階段を登っていった。 この大阪府精神科医療センターは二階建てだ。 すぐに屋上への扉にたどり着き、鍵を差し込む。 あまり使っていなかったせいか、滑りが悪く少々手間取った。 「涼しい……」 「閉鎖病棟の患者さんにも、早くこういう空気を吸ってもらいたいよなあ」 後ろ手にドアを閉めると、笈川は柵に歩み寄った。 普段は入れないようになっているが、かなりだだっ広い。 左側には給水タンクや空調機器がある。 屋上の周囲に二メートルほどの金網柵が張り巡らされていること以外、人が来ることを想定して作られてはいない様子だった。
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