精神科救急外来

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「可愛い子が入ったねえ」 救急隊員たちに両脇を抱えられながら絶叫する患者を見たときの、笈川の第一声だ。 三十代半ばの男性医師で、いつもどこか笑っているように見える。 「先生、のん気なこと言ってないで。それと、この方男性ですよ」 小暮が呆れ顔で救急処置室に入っていく。 眼鏡の奥で生真面目そうな大きな目が輝いていた。 笈川はあせる様子もなく、両手を白衣のポケットに突っ込んだまま、あくびをしながら小暮に続く。 夜の一時過ぎだ。 当直でなければ、とっくにエアコンを効かせた寝室で熟睡しているはずの時間である。 後頭部を掻きながら、のんびりと呟いた。 「まあ、むさい男よりゃ良いか」 男性患者は細く女性的な四肢をしていたが、あまりに暴れるため、ヘルメットをかぶった男性救急隊員が二人がかりで押さえつけねばならないほどだった。 白い処置室には、箱型をしたさまざまな機材が並んでいる。 三台の滑車付きベッドがその中央にあり、抑制帯と呼ばれる帯状の拘束具が備え付けられていた。 三人の女性看護師と研修医の小暮が男をベッドに押さえつけ、なんとか抑制帯を装着させようとしている。
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