閉鎖病棟

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「えっ? ええと、六宮さんを殺そうと……」 「あのなあ、六宮君とオレは面識ないの。さっきは私怨による密告で今度は無差別殺人って、どんだけ節操ないんだよ」 「あっ、じゃあ先生は実は自治隊のスパイで、自治隊批判をした六宮さんも密告しようと……」 「君さっきさぁ、"院内で自治隊批判なんか日常的に聞いているはず"って言ってただろ。なんでオレ今まで大人しくしてたの?」 「うう……先生、実は過去に六宮さんに振られてて、その腹いせに」 「頼むから、これ以上オレの嫁探しに支障をきたすようなことは言い出さないでくれ。今年で三十五なんだ」 初めて苦々しい顔を見せた。 「じゃあ、正解は一体何なんですか」 「いやいや、その前に前提が間違ってるんだよ」 小暮は彼の言わんとすることが分からず、ぽかんと口を開けた。 笈川が思わず吹き出す。 「さっきの名探偵ぶりは好きだったよ。なかなか聞いてて面白かった。 けどねえ、五人じゃないんだ。あのとき、もうひとり処置室にいた人間がいるんだよ」 「え? でも、僕と山村さんたちと、先生と……まさか六宮さんが?」 「ばか、どうやって密告できたんだ。思い出してごらん、六宮君はどうやって運ばれてきたんだい?」 「救急隊員さんに両脇を抱えられて……あ!」 笈川は笑顔でうなづいた。 「救急隊員さんたち、そういえば二人いました……」 言ったあと、小暮は赤面した。 先ほど散々喋り捲ったあげく、世話になった先輩医師を犯人扱いしたのだ。 「君の理論で言えば、同じ職場にいるもう一人の救急隊員のほうが、オレなんかよりもよっぽど私怨を持ってそうな感じがするんだけどね」 「すみません。すみません」 必死に頭を下げ、謝罪を繰り返す。 その様子を見て笑ってくれているのが唯一の救いだ。
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