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「フェイト……人を捨てる覚悟はある?」
視界に収まりきらない程の太い幹。
天を覆い隠す様に伸びた枝葉。
風に靡かれざわざわと揺れる葉擦音に混じり、聞き覚えのある柔らかな声が耳に届いた。
それは幼い日に聞いたものと全く同じ……
同じなのだが、優しさの奥に憂いが潜んでいる事に気がついた。
僕は逡巡した後、首を縦に振る。
「うん。守りたいんだ。僕は――」
苦笑をまじえながら俯き、顔を上げると同時に口を開いた。
「この世界に住まう人々を――」
世界樹、”エルターシャ”が一際穏やかな空気を身に纏い、後に淡い輝きを放ち始めた。
あたかも母からの愛を具現化した様な……
僕だけに向けられた特別な光を。
「フェイト……」
背後で僕と母さんのやり取りを聞いていたゴメスは、複雑な表情を浮かべ小さく呟いた。
僕はゴメスの方へ振り返り、精一杯柔和な表情で笑い一言だけ発する。
「……ありがとう」
次の瞬間、僕の体は眩い光に包みこまれた。
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