慕情

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二人だけ閉じ込められた密室 10階を通り過ぎて、エレベーターは最上階への扉が開いた その間の会話はなし… 私を追いかけてくれた事実があるのに、それが嬉しかった…のに… この静けさが不安を駆り立てていく   一歩、踏み出す事さえも緊張して戸惑っていた私を 彼の手が腰に添えられて、エスコートする様に胸が撃ち抜かれた 「久しぶりだね」 前よりも深さを増した大人の貴方 スマートにバーテンに注文する姿も ゆったりと煙草を味わう姿も 余裕があるその表情さえも 私だけが過去に置いていかれたのを、痛いくらいに感じ取った 「元気だった?」 声が震えないように、わざと明るく振る舞って 「あぁ…君は?」 流された視線に感じ取られない感情 「どうだろう…」 素直じゃない答え方に、やっぱり面倒な女だと再認識 貴方がいない世界は寂しくてつまらない そんな本音をひた隠して カウンターの奥は大きなガラス窓 まるで絵画が飾られているよう 夜景と曇った黒い空を見つめた
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