慕情

6/10
前へ
/70ページ
次へ
普段の生活の中でなら、彼を名で呼んでも傷まない でも、行為中に呼ぶ事はどうしても耐えられない あの人との、唯一の思い出が塗り替えられてしまうような気がして… グッと痛いくらいに両手首を掴まれ、ベッドに貼り付けられて 目を開くと、苦しそうな彼の表情 動きを止めて私の中から抜け出して 「………もう…いいよ…」 力無くベッドから遠ざかっていく姿は、あの時の彼とダブって見えて あぁ… もう戻れない そう、感じて ズキズキと赤い血を流した心は誰の為だったんだろう あれが私達が壊れた瞬間だった その後は、互いに傷を見せないように 忙しさを理由に、まともに顔を合わせる事もなく 記入された離婚届け それを一人で提出し、引っ越しも業者に任せて 私の世界は私だけのものになり 自由と引き換えに孤独を手に入れた 貴方から彼への別れ話が、私の弱さを見透かされているようで   だから精一杯の去勢をして見せた
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

360人が本棚に入れています
本棚に追加