慕情

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左手をひらりと振る彼に、目に見えぬ他の女の存在を示されても まだ確実に踏み出していないのならばと 卑劣な言い訳をして 口説いて 何度もその言葉を飲み込んだ あの時と同じように 私を欲してと願いながら 『口説いて』 その思考に捕らわれる 故意的に彼に寄せて置いた右手が静かに重なった彼の掌 その瞬間に何とも言えない感情に 声が出そうになった自分を抑えた そう、口説いて もっと…  心を見透かしてるように、指先を絡め蠢く彼に 打算的なはしたない女と思われようが 今はどうでもいい 「必要以上に酔わされた」 フッと苦笑いの彼の表情は、言葉とは裏腹にまだ余裕があって 嘘つき… 酔わされていないくせに 彼とは違い、流し込んだ分だけアルコールが回って ふわっとした感覚が気持ち良くて 早く、早く……… ………口説き落として 唇の動きだけで彼の名を呼んだ   
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