慕情

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彼が唇の動きを読んだかは分からない 二人とも黙ったまま、絡んだ視線に絡んだ指先 ほんの僅かな時間に、正直に反応をする熱くなる身体 そして、その身体を持て余して まだ残りのグラスを左手で持ち、彼から視線を外す事なく ゆっくりと口に含み流し込んだ フッと見せた余裕の笑みと共に 彼の右手がグラスを盗み取って 今度は彼がその残りを飲み干した   「行こうか…」 そう、耳寄りに低音が響いて 合図を出した彼にバーテンが寄ると、これもスマートにカードを手渡した その一連の動きを、彼じゃ無かったのならば ただの嫌みな男だろうなと、ぼんやりと眺めていた 「どうした?」 投げられた彼の言葉に意識を戻して 既に立っている彼の横に立ち上がった 歩き出した彼の一歩後ろを歩いて、その背中を眺める バーにいる何組かの客に 私達の姿はどう映っているのか、気になりながら 今夜このまま連れ去って欲しいと、その背中に願いを馳せた
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