慕情

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エレベーターが開いて、紳士的に彼が私を誘導する 奥まで進んだ私に、彼の言葉が非情に突き刺さった 「何階?」 「……10階…」 押されている13の数字と、彼の指が迷う事もなく10のボタンへ さっきまでの甘い時間は、彼の悪戯に過ぎないと 期待感が膨らんだ分だけ粉々に砕け散って 泣き出したい気持ちに、目を閉じて耐えるしかなかった 直ぐに彼が降りる階への到着音が鳴って ゆっくり目を開くと、同時に奥歯を少しだけ噛み締めた 何も言わない背中に、早く扉が閉まって欲しいと 早く立ち去って欲しいと やがて閉まる扉から彼の姿を外したのは私だった やっと逢えた焦がれた貴方が いとも簡単にすり抜けた絶望で 床に崩れ落ちてしまいそうなくらい、惨めと羞恥で それでも 最後に閉まりかけた空間に右手が伸びて掴んだのは空だけで… 再び目を閉じた 次の瞬間、グッと力強い腕に引っ張られ 大きく見開いた先は 意地の悪い唇を歪める貴方だった
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