360人が本棚に入れています
本棚に追加
エレベーターが開いて、紳士的に彼が私を誘導する
奥まで進んだ私に、彼の言葉が非情に突き刺さった
「何階?」
「……10階…」
押されている13の数字と、彼の指が迷う事もなく10のボタンへ
さっきまでの甘い時間は、彼の悪戯に過ぎないと
期待感が膨らんだ分だけ粉々に砕け散って
泣き出したい気持ちに、目を閉じて耐えるしかなかった
直ぐに彼が降りる階への到着音が鳴って
ゆっくり目を開くと、同時に奥歯を少しだけ噛み締めた
何も言わない背中に、早く扉が閉まって欲しいと
早く立ち去って欲しいと
やがて閉まる扉から彼の姿を外したのは私だった
やっと逢えた焦がれた貴方が
いとも簡単にすり抜けた絶望で
床に崩れ落ちてしまいそうなくらい、惨めと羞恥で
それでも
最後に閉まりかけた空間に右手が伸びて掴んだのは空だけで…
再び目を閉じた
次の瞬間、グッと力強い腕に引っ張られ
大きく見開いた先は
意地の悪い唇を歪める貴方だった
最初のコメントを投稿しよう!