劣情

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異国情緒溢れたこの街 この街で暮らしていたのは6年 離れてしまった時間は7年 あの頃よりも色褪せているような気がするのは 私がくすんでしまったからか 来るべきじゃなかった 今更ながらにそんなくだらない事を思い直して ホテルの受付に手続きを済ませ、カードキーを受け取った 「会場は四階になっております お荷物はこちら側でお運び致します」 申し出を断って、そのままエレベーターに乗り込んだ さすが10階の部屋からの景色 少しだけ開く窓を開けて、下を眺めると人が蟻のように見えて 数年前まではあの中に自分の姿もあったのだろうと 今が夢物語のように思えた ベッドサイドの時計の時刻を見れば、始まる時間まで一時間を切っていた さっと汗だけ流して、スーツケースから黒のスーツを着込んだ 急ぎながらも、化粧は念入りに もう若くはない肌に失笑しながら、最後の仕上げにルージュをのせた さぁ、仕事しますか そして僅かな期待を秘めて、4階まで下りていった
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