第1章 小麦の町

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「それでは、これから3日後には必ずお知らせします。今日はまだ他の仕事が入っていますので、失礼します」 「ああ、よろしく頼むよ」 最後の伯爵の言葉にも少し違和感を感じながら、彼女は部屋をあとにする。 「ありがとう、ございました」 使用人らしき女が、無駄に大きい入り口のドアを開けて待っていた。 そのドアへ向かう途中、ふと彼女は掃き掃除をする男に目が留まる。 軍服を着て、床を掃くその男。 その男の前を無言で通りすぎ、そそくさと外へ出る。 そうして、荷馬車の前まで戻ると同時に、彼女は肩をおろした。 「…………疲れた」 夕焼けが、赤く空を染めていた。 * 東北戦争後、ある程度の復興が進み世界の中心へメルシアが足を踏み入れだした頃、ある問題が発生した。 それが、兵士問題である。 現在メルシア王国で一番兵士が多いのは、メルシア地域西側沿岸の首都、トリノラインだ。 トリノラインに兵士が多い理由……それは戦争終了後、メルシアの現国王自らが国軍兵を組織した為である。 .
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