第1章 小麦の町

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耳のすぐ上で括っても腰まで掛かる艶やかな白髪が、風で大きくなびいた。 「暑苦しい」 未だ日焼けを知らない白い顔を目一杯引きつらせ、彼女は嫌悪感を張り付けた顔で太陽を睨み付ける。 帽子も持たないセリアに、直射日光は容赦がない。不満を言っても仕方ないのは分かっていても、この苛立ちをぶつける手立てが他になかったのだった。 ただでさえ不機嫌な彼女の苛立ちは、さらに増すばかりなのだが、原因は暑さのせいばかりではない。 彼女は諦めたように溜息をついて、気分転換にと荷馬車から辺りを見渡す。 「……落ちつくなぁ。いつみても」 眼下に広がる光景は、何度見ても感嘆の一言につきた。 それは、辺り一面が財貨と宝で埋め尽くされた宝箱。しかしどこまでも優しく、自然と穏やかになれる黄金色の小麦畑。 風で穂が揺れ、軽く心地よい音色が耳へと流れてきて、その時だけは今までの苛立ちもすっぱり忘れることができる。 一面小麦畑の美しい風景こそ、この地方の真の宝。さすが小麦の町、とセリアはその光景にうっとりと見惚れた。 .
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