第1章 小麦の町

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そして屋敷の扉の前まで来て、 「…………よし」 一人、空虚な気合いで持ち直し、中へと入っていった。 * 床一面に赤絨毯、上には豪華なガラスの装飾。見渡す限りに飾られた、高価そうなコレクションの数々。 一目でここの主人が貴族であると分かるように作られた、いかにもな屋敷である。 しかし少し見れば大抵の商人は呆れるだろう。大した品なんて一つもないのだから。 廊下を歩きながら、何度セリアは挫けそうになったことか。 他よりさらに凝った扉を開けると、ガラスケースに囲まれた部屋にこの屋敷の主人たる男は、大きな巨体に似合わない……確か随分前に流行した首がキツそうな服装を身に付け、置かれたコレクションを楽しそうに眺めていた。 「ああ、来たかね。いやぁ、ご無沙汰してるね、セリア君」 セリアに気づいたのか、顔を向けて男は気味の悪い笑みを顕にする。 「いえ、これが私の仕事ですから。……こちらこそ、前回の武器を気に入って頂けたようで嬉しい限りです。ネレフ伯爵」 セリアも笑いながら答えた。 だいぶ笑顔にしては口元が引きつってはいるが。 仕事上の愛想笑いは彼女の得意とするところだが、休日がなくなったことによる連日のストレスは、予想通りほぼ限界値に達していた。 .
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