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「……鬼島さん」  明理が呼び掛けて、鬼島はノートから目を離した。 「何?」 「雀野先生が来るまで暇だから、お喋りくらいしたい」  鬼島の顔に、苛立ちが現れる。がさがさと強く頭を掻き、わざと露骨に顔をしかめた。 「……雀野先生は来ない」 「何でー。……あ、じゃあ海老池さんが来るまで。もう五時だし、海老池さんは入部したての一年生だし、たぶん来るよね。それまでなら」 「いや、海老池は」  鬼島の言葉が切れる。目を見開き、じっと目の前にある空間を睨みつける。  数秒の間停止した後、鬼島はこう言った。 「……ははーん。わかっちゃったみたいだ、明理ちゃんの余裕の秘密」 「秘密? 私の?」  また、明理は首を傾ける。眉を潜め、困惑とも言える表情を湛え、鬼島の目を見た。まるで、鬼島が何を言っているのか全くわかっていないかのような、そんな表情だ。 「明理ちゃんはいいんだよ、そのままで。その勘違い、その思い違いをしたままで。多分、自力では気づけないだろうから」
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