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鬼島はゆっくりと息を吸った。左手の人差し指を立て、明理の表情を窺い、口を開く。
「取り合えずさ、私は勉強がしたいから、集中して勉強する時間と空間が欲しいから、一つ言っておくよ」
明理の目付きから、戸惑いの感情が消え、鬼島の言葉を待つようなものに変わった。そんな明理の態度に少しだけ口元を緩ませ、鬼島は言う。
「海老池は来ない」
「…………え?」
テンポ遅れて、明理は声を出した。蛇口から漏れ出た雫のような、波紋を残すだけで意味を持たない声だった。
鬼島は追撃する。
「雀野唯識も海老池説奈も、絶対にここには来ない。断言出来る。それこそ賭けてもいいね」
「? どういうこと? え?」
頭の回っていない明理を見て、対照的に鬼島は冷静だった。思考回路が縺れた今、明理の頭脳は人並み以下に落ち込んでいるようで、それは明理の慌て方にも表れていた。
「鬼島さん、せ、説明を……」
今度はすがるような声を出す。その姿を見て、満足そうな鬼島の目。
「たまにはこんな困ってる明理ちゃんを見るのも良いもんだけど、仕方ない、説明しちゃおうかな」
名残惜しいけど、と鬼島は上機嫌に笑った。
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