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   静かな教室。入口から奥に細長い、少し蒸し暑い部屋。普通教室よりもかなり小さい部屋で、奥の壁に貼られた紙に「文芸部」という文字が筆で力強く横書きされているのが目立つ。部屋の中央には、長い机が二台、横に繋げるように並べられ、四脚の学校椅子が一緒に置かれている。  文芸部の部室というだけあって、そこには推理小説から歴史書まで、多種多様の本が大量にあった。それらの本は二面の壁に備えられた本棚ではとても入り切らず、その分床を奥から順に埋めていき、ただでさえ狭い部屋の面積をさらに圧迫している。中央の机にも、常に十冊以上、誰も退屈しない量の本が積まれている。  だが、今部室にいる唯一の人物――猫西明理(ねこにしあかり)は、退屈そうな顔で椅子に腰かけていた。元々おっとりした雰囲気があるのも手伝ってか、退屈そうなのと同時に眠たそうでもある。しかし、彼女はいくらでもある本のどれにも手を着けず、ただ無駄な時間を流しているだけだった。 「先生、まだかなあ」  虫の羽音のように小さな声で、誰にも聴かれない独り言を呟く。その上、溜め息も一緒に吐いたが、それでも明理は独りだった。
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