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 少女はそのままスリッパを鳴らして歩き、先程まで明理が座っていた位置の向かい側に、革の黒い鞄をどさりと下ろした。鞄には装飾の類いが全くついておらず、少女の性格を端的に表しているかのようだった。  劣化している蛍光灯の一本が、何度か瞬いた。 「鬼島さんも結構早いと思うよ。ほら、まだ四十分にもなってないし」  明理はほっとしたような口調で言った。表情からも先ほどまでのような沈鬱さは消えて、今は暖かい笑みを浮かべている。 「ふふん、空調は利いていないみたいだな。流石は市立高校、金の使い方が私好みだ」  鬼島と呼ばれた少女は、部室内を見回しながら文句とも称賛とも皮肉ともつかないことを呟いて、学校椅子に腰を下ろした。机の上にある自分の鞄に肘を乗せて頬杖をつき、もう片方の手は腰にあてている。 「鬼島さん、何か本とか持ってない? 今、読める本がなくて」  明理も自分の椅子に戻り、浅く腰掛ける。鬼島のような崩した座り方はせず、膝の上に小さな拳を置いている。その片手には、先の生徒証がまだ握られているようだった。  鬼島は明理の言葉を受けて、きょとんとした顔になってしばらく黙った後、ああ、と何かに気づいたような声を出した。
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