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鬼島は明理の言葉をさらりと受け流し、続けた。
「そう言えば、雀野先生も結構早い方だしな。私が今日この時間に来たのは単なる気紛れだけど、明理ちゃんと雀野先生は……来る時間がある程度決まってる」
「そう? 今日は雀野先生、まだ来てないよ?」
「今日は、な」
鬼島は一旦ここで言葉を切り、明理の目を見直した。
鬼島が他者を睨むと、立派な威嚇になる。鬼島としても、自身の目力をなんとか柔らかくしようとしているようだが、今はどうにも上手くいっておらず、獲物を狙う獣のような鋭さが残ってしまっている。
加えて、同時に放つ言葉も皮肉のようなものだった。
「明理ちゃん、さっきまで私じゃなく雀野先生を待ってたってことは、否定しないんだなあ」
「んー、ごめんなさい……」
「……そう謝られると、何か、私の方が悪いことをしたみたいな気分になるな」
何気なく、鬼島は積まれていた文庫本に手を伸ばした。映画化もされている有名な小説だったが、鬼島は左手だけでページをぱらぱらと捲っていった。頬杖をつき、本に目をやったままで鬼島は言った。
「あんまり下らないことで謝らないでくれよ、明理ちゃん」
「じゃあ、ありがとう。だけど、もう図書館はいいかな。鬼島さんもいるし、退屈じゃないよ」
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