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「そいつは結構。でもなあ、雀野先生、今日は多分来ないんじゃないか」
閉じた文庫本を山の上に戻し、鬼島は言う。まだほとんど読んでもいないはずだが、鬼島は既にその本への興味が失せたような、どうでもよさそうな扱いをした。
明理は首を傾げ、言った。
「そうかな。そんなに忙しい人でもないと思うけど。いつもは五十分頃にはここに来るよね」
先程まで肯定しないようなことを言っていたのが嘘のように、明理は呟いた。明るく、表裏のなさそうな、純粋な表情だった。
そんな明理の様子に、鬼島は達観したかのような冷たい笑みを見せた。
「じゃあ私、来ない方に賭ける」
「賭けるって?」
明理が先までとは逆向きに首を傾げ、人差し指を一本、口元に当てる仕草をする。
あざといな、と鬼島は小さく呟いたが、明理の耳にはっきり届くほどの声量ではなかった。しかしそのせいで、明理はますます、小首を傾げたりハテナを浮かべたりといった、鬼島からあざとく思われるアクションを重ねる結果になった。
鬼島は頭を振って、気を持ち直そうとする。
「いや、ね。えっと、先生が来るか来ないか、賭けでもしない? ……ってこと、なんだけどさ」
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