1.はじめまして、ハーブティー。

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 バリィッ、ガリッ、ゴリッ、バリバリ、ガゴゴゴゴ。  室内に響き渡る破壊音は、手足をだらしなく前に投げ出して座る髪の長い小柄な少年の口から発生している。彼はメスと呼ばれていた。 「昔さー、こうやって煎餅齧ってたら乳歯が抜けた事があったよ。」 「マジでーww 痛ったそーwww」  卓袱台の反対側でノートパソコンのキーボードを叩くマッシュルームカットの少年、マッシュは愉快そうに口の端を上げた。 「いや、元々抜けそうだったから痛みは無かったんだけど、口の中煎餅まみれだから抜けた歯食いそうになってさー。」 「で、食べちゃったんだ?ww」 「食べちゃってないよ! ちゃーんと屋根に投げました。」 「あ、そーいうのする派なんだ、意外だった。」  未だ梅雨を抜け切っていない六月下旬、いくらこの学園が風通りの良い丘の上に建っていたとしても、制服が夏服に移行しても、夏は夏。蒸し暑さに負けた脆弱な二人はクーラーの涼風の下、贅沢な放課後を満喫中だ。 「ピアス遅いなー。」  梅昆布茶を啜り、足を組み直し、煎餅は尽きた。購買部へ買出しに行ったピアスが帰って来ない。今日は火曜日、本格カレールーをふんだん詰め込んで揚げたカレーパンに、これまた本格的なガラムマサラの効いたタンドリーチキンを挟んで、隠し味にサワークリームを添えた、油分とカロリーとターメリック満載のタンドリーチキンカリーパンは火曜日の放課後限定販売だ。全校男子憧れ、愛しのタンドリーチキンカリーパンを十分も待てる程の我慢強さを、この二人は持ち合わせていないのだ。  マッシュは部屋の端にある電話の受話器を取り、ボタンを押した。ピンポンパンポーンと軽い音が校内に響く。 「業務連絡、業務連絡ー。ピアスー、至急お茶研部室までタンドリーティキンカッリィーパンを持って来なさい。繰り返す、ピアス、腹減ったぁー!」  メスが隣に並び、放送に割り込む。 「至急タンドリーを持って来い。」 「カリーパンをー持って来い。」 「至急!」 「今すぐ!」 「以上!」  ピンポンパンポーン。  放送が終わるや否や、受話器を置いたばかりの電話がけたたましく鳴り出した。再び受話器を取れば「しょうもない事に校内放送を使うな!」と耳に当てるよりも先に怒鳴られて通話は切れた。
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