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「亜衣羅……。ちょっと亜衣羅ってば……」
―――はっ……。
慌ててガバッと起き上がった私は、右隣りの顔 を確認する。
「…なつ……子?」
「何が夏子?よ。もう、とっくに講義終わって るよ」
どうやら私は睡魔に負けて、机に突っ伏して 眠ってしまったようだ。
呆れた夏子の視線が痛い。
「お前、よっぽど疲れてたんだな」
苦笑する卓郎の声が届いた。
「やだ私、寝てたんだね。ははっ……」
笑って誤魔化す私は、
―――どうせなら、後5分寝かせてくれても良 かったのに……。
と、少しばかり不満が残る。
だって……。
花火が上がった瞬間起こされて、肝心の花火を 見損なってしまったから。
だけど、街の景色や綺麗な星空 、夜風や木々 の香、全部ハッキリ覚えているのに、何故か隣 りに座る恋人の顔だけ思い出せない。
「…ム…ト……」
その名を小さく呟いた。
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