夢の始まり

11/28
前へ
/150ページ
次へ
「霧の中の、恋人?」 無意識に口から漏れた言葉。 不意に浮かんだのは、ついさっき夢で見た彼、 ムトの事。 他の事はハッキリ覚えているのに、彼の顔だけ 靄がかかって思い出せない。 正に霧の中の恋人。 店員は更に説明を続ける。 「アルカロイドという毒性が含まれているので 種の取り扱いには注意が必要だそうです」 「えっ?!毒があるんですか?あんな小さくて 可愛い花なのに……」 3㎝ほどの本当に小さな花なのに、あまりにも 意外で驚いた私は、どこか信じられなくて。 だけど店員は、 「それがあるんですよね」と困った顔して、 「でも、花言葉は素敵なんですよ」 と付け加えた。 「花言葉は何なんですか?」 普段、花にも花言葉にも興味がなかった私が、 不思議とニゲラと呼ばれる花が気になって仕方 ない。 「花言葉は、夢で逢いましょう。ねっ?素敵で すよね?水色や薄いピンク、白色の花を咲かせ るんです」 この店員は、本当に花が好きなんだろう。 説明をしている間、終始目を輝かせていた店員 は、体全体から花を愛する優しさが滲み出てい た。
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加