夢の始まり

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「あの、じゃあその赤いの1本下さい」 別に欲しかった訳じゃない。 だけど、あまりにも親切に丁寧に説明してくれ たから、何も買わないで帰るのは気が引けて、 たまたま目についたレジ横のチューリップを買 う。 「ありがとうございました」 何度見ても気持ちの良い笑顔に見送られて、花を1本手にして卓郎が待つ車に戻った。 「随分かかったな。……って、それチューリッ プじゃん。花壇の花が欲しかったんじゃないの か?」 私の手元を見た卓郎が、不思議そうにチュー リップを見つめて、 「そうなんだけどね、あの花は夏の花みたいな んだ」 「夏の?嘘だろ?その店員、別の花と勘違いし たんじゃないか?ちゃんと説明したのか?」 そう話しながら、ミラーで後ろを確認すると走 らせた。 「勘違いはしてないと思うよ。だって私、ちゃ んと写メ見せたんだから」 花を膝に置いて、写メを見つめる私に卓郎は言 う。 「じゃあなんで、花壇には咲いてたんだ?」 「それは……」 そう言われると確かに不思議だけど、たまたま 去年の種が勝手に芽を出して咲いたのかもしれ ないと。 元々花好きじゃない私は、特に深く考える事も なく、家の前まで送り届けてもらう。 「じゃあね、卓郎」 「じゃあな。後でメールする」 言葉を交わして車を降りた。
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