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「よしっ!メイクも完璧。じゃあママ、行って くるね」
「行ってらっしゃい」
軽くトーストとコーヒーで朝食を済ませて着替 えると、春らしいピンクのストールを首に巻い て、オニューのミュールに足を入れる。
「あっ、そうだ。今日は卓郎と食べて来るから 夕飯はいらない」
ドアに手をかけた状態で振り返り、思い出した ようにそう告げて。
「あら、そう。今日は哲也も遅くなるって言う し、お父さんと2人の食事なのね。作る張り合 いないわねぇ。お茶漬けでいいかしら」
ガッカリした表情を浮かべる母は、なんだか少 し寂しそうに見えたけど。
「あぁ、ほんとにもう行かなきゃ。卓郎待たせ てるし」
気づかないふりして外に出ると「ふぅ……」軽 く息を吐きだし車へと急いだ。
ヒュー………。
それは突然だった。
まるで誰が通り過ぎたように、背後から強い風 が私の体をすり抜けた。
気のせいだろうか。
一瞬、ふわっと花の香りがした気がしたけ ど……。
微かに感じたその香りは、不思議と気持ちを穏 やかにする。
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