夢の始まり

19/28
前へ
/150ページ
次へ
「よしっ!メイクも完璧。じゃあママ、行って くるね」 「行ってらっしゃい」 軽くトーストとコーヒーで朝食を済ませて着替 えると、春らしいピンクのストールを首に巻い て、オニューのミュールに足を入れる。 「あっ、そうだ。今日は卓郎と食べて来るから 夕飯はいらない」 ドアに手をかけた状態で振り返り、思い出した ようにそう告げて。 「あら、そう。今日は哲也も遅くなるって言う し、お父さんと2人の食事なのね。作る張り合 いないわねぇ。お茶漬けでいいかしら」 ガッカリした表情を浮かべる母は、なんだか少 し寂しそうに見えたけど。 「あぁ、ほんとにもう行かなきゃ。卓郎待たせ てるし」 気づかないふりして外に出ると「ふぅ……」軽 く息を吐きだし車へと急いだ。 ヒュー………。 それは突然だった。 まるで誰が通り過ぎたように、背後から強い風 が私の体をすり抜けた。 気のせいだろうか。 一瞬、ふわっと花の香りがした気がしたけ ど……。 微かに感じたその香りは、不思議と気持ちを穏 やかにする。
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加