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「……アイラ」
「あぁ、ごめん。あまりにも綺麗だったから さ」
暗い夜空に大きく浮かび上がった文字に、つい 夢中で見つめていた私は、ムトの呼びかけで ハッとする。
「まぁ確かに綺麗だったな。けど、そんなに乗 り出したら転げ落ちるぞ」
「……えっ?!」
言われて気づいた私は青ざめた。
夢中で見入っているうちに、知らず知らずに乗 り出したら体は、今にも頭から転がりそうなく らいに前のめりになっていて。
「ここが坂だって忘れてないか?」
半分心配、半分呆れるムトに言われて、慌てて 体を戻した私は冷や汗をかく。
これ程までに夢中にさせた、空に描かれた文字 は……。
真っ暗な中に赤く輝く“夢”の1文字。
「お祝いの花火も終わった事だし、そろそろ車 に戻ろうよ」
そう言って立ち上がり浴衣の裾をを直す私の腕 を、
「……アイラ」
甘い呼び声と共に掴んで自分に引き寄せたム ト。
彼の腕の中に収まる私の鼓動はドクドクと音を 立てて、見上げた先には近づく彼の顔がある。
「…ムト……」
キスされると直感した私は、静かに瞼を閉じ た。
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