夢の始まり

21/28
前へ
/150ページ
次へ
*************** 「……アイラ」 「あぁ、ごめん。あまりにも綺麗だったから さ」 暗い夜空に大きく浮かび上がった文字に、つい 夢中で見つめていた私は、ムトの呼びかけで ハッとする。 「まぁ確かに綺麗だったな。けど、そんなに乗 り出したら転げ落ちるぞ」 「……えっ?!」 言われて気づいた私は青ざめた。 夢中で見入っているうちに、知らず知らずに乗 り出したら体は、今にも頭から転がりそうなく らいに前のめりになっていて。 「ここが坂だって忘れてないか?」 半分心配、半分呆れるムトに言われて、慌てて 体を戻した私は冷や汗をかく。 これ程までに夢中にさせた、空に描かれた文字 は……。 真っ暗な中に赤く輝く“夢”の1文字。 「お祝いの花火も終わった事だし、そろそろ車 に戻ろうよ」 そう言って立ち上がり浴衣の裾をを直す私の腕 を、 「……アイラ」 甘い呼び声と共に掴んで自分に引き寄せたム ト。 彼の腕の中に収まる私の鼓動はドクドクと音を 立てて、見上げた先には近づく彼の顔がある。 「…ムト……」 キスされると直感した私は、静かに瞼を閉じ た。
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加