夢の始まり

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「なんだ、夏子か」 「なんだはないでしょ。悪かったわね、卓郎 じゃなくて……」 友達と談笑する卓郎にちらっと視線を向けて、 拗ねたように口を尖らせ隣りに座る夏子に、 「それよりさ、夏子なら知ってるかな?花壇の 花の事」 頬杖ついたまま顔だけそちらに向けて、何気な くなくあのニゲラの事を聞いてみた。 「花壇の花?何それ」 唐突な質問に夏子は首を傾げる。 「花壇にね、ニゲラって花が咲いてるんだけど 誰が植えたのかな?」 「さぁ?そんな事知ってどうすんの?亜衣羅っ て花に興味なかったよね?」 「そうなんだけど、なんか気に入っちゃって、 急に欲しくなってさ。なのに今時期はまだ咲か ないらしいんだ」 私は昨日、花屋に立ち寄った事を伝えた。 「うっそ……わざわざ買いに行っちゃうとか、 亜衣羅ほんとどうしちゃったの?車に跳ねられ そうになった時、打ち所悪かったんじゃない の?もっかい脳の検査してもらったら?」 顔を覗き込む夏子の発言は、本気なのか冗談な のか、わからない私は「う…」と苦笑いして また机に突っ伏した。 そこに卓郎も戻って来て講義も始まり、途中で また何度も睡魔に誘われたけど。 今バイトで受け持っている中学生の男の子が、 予想以上にデキが悪いらしくて、 「でね、X=Yだって言ってんのに、何回教え ても同じ所で間違うんだから……」 欠伸をしながら夏子の愚痴を聞かされて、この 日私が居眠りする事はなかった。 流石に続きを見る事も、もうないだろうと思っ ていた。
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